ぼくはまだ、競馬を完全には理解していません。
競走馬の能力を比較し、AIで各馬の勝率を計算し、オッズとの間に期待値があるかを確認する。
ここまでは、少しずつできるようになってきました。
しかし、実際に馬券を買う段階になると、もう一つ難しい問題が残ります。
その馬券に、いくら賭けるべきなのか。
同じ馬を買った二人でも、賭け金によって最終的な収支は大きく変わります。
期待値がある馬券でも、資金の半分を一度に投入すれば、数回の不的中で継続できなくなるかもしれません。
反対に、条件のよい馬券を見つけても、毎回100円しか買わなければ、資金全体に対する効果は小さくなります。
そこで登場するのが、賭け金の割合を決める方法として知られる「ケリー基準」です。
今回は、ケリー基準の基本的な考え方と、競馬AIのp_winを実際の資金配分に使う際の注意点を整理します。
資金管理だけで勝てるわけではない

最初に、資金管理について誤解しやすい点を整理しておきます。
競馬では、
- 均等に買うより金額に強弱をつけた方がよい
- 賭け金を管理すれば長期的に勝てる
- ケリー基準を使えば資金が増える
と説明されることがあります。
しかし、資金管理だけで期待値の低い馬券をプラスに変えることはできません。
例えば、実際の勝率が20%で、単勝オッズが3倍の馬を考えます。
単純な払戻期待値は、
0.20 × 3.0 = 0.60
です。
100円を賭けた場合の理論上の払戻しは60円相当となり、期待値は100円を下回っています。
この馬券に100円を賭けても、1,000円を賭けても、期待値が低いという性質は変わりません。
賭け金を工夫したからといって、悪い条件の馬券がよい条件になるわけではないのです。
資金管理が役に立つのは、
期待値があると判断した馬券に対して、どの程度の資金を配分するか
を決める場面です。
AIメモとして整理するなら、次の順番になります。
先に「買う価値があるか」を判断する。
その後で「いくら買うか」を決める。
「何を買うか」と「いくら賭けるか」は、どちらか一方だけで成立するものではありません。
ケリー基準とは何か
ケリー基準は、勝つ確率と払戻倍率から、資金のうち何%を賭けるかを求める考え方です。
J.L.ケリー・ジュニアが1956年に発表した論文を起点とし、長期的な資金の対数成長率を最大化する配分として知られています。単純に一度の利益を最大化するのではなく、繰り返し賭けたときの資金成長を重視する点が特徴です。
単勝馬券のように、
- 的中すればオッズに応じた払戻しを受ける
- 外れれば賭け金を失う
という条件では、次の式で表せます。
賭ける資金割合 =
(オッズ × 勝率 − 1)÷(オッズ − 1)
記号で表すと、
f =(O × p − 1)÷(O − 1)
となります。
| 記号 | 意味 |
|---|---|
| f | 資金のうち賭ける割合 |
| O | 単勝オッズ |
| p | その馬が勝つ確率 |
| O−1 | 的中時に得られる純利益倍率 |
計算結果がプラスなら、理論上は購入対象になります。
計算結果が0以下なら、ケリー基準上は「賭けない」という判断です。
期待値が低いときに少額を買うのではありません。
期待値がないなら0円にする。
ここが重要です。
p_win20%、単勝6倍の場合
現在の競馬AIでは、各馬が1着になる確率をp_winとして出力しています。
例えば、次の馬がいたとします。
- AIのp_win:20%
- 単勝オッズ:6倍
- 競馬資金:10万円
式に当てはめると、
(6 × 0.20 − 1)÷(6 − 1)
=(1.20 − 1)÷5
=0.04
ケリー基準による賭け金割合は4%です。
競馬資金が10万円なら、
10万円 × 4% = 4,000円
がフルケリーでの購入金額になります。
この馬の損益分岐となる勝率は、単純計算で約16.7%です。
1 ÷ 6 =約16.7%
AIは20%と評価しているため、市場のオッズが示す損益分岐点より約3.3ポイント高く見積もっていることになります。
この差が、ケリー基準による4%という配分につながっています。
同じ期待値でも賭け金割合は変わる
ケリー基準では、単に「期待値が1を超えたか」だけではなく、勝率とオッズの組み合わせによって配分が変わります。
| AI勝率 | 単勝オッズ | 単純期待値 | フルケリー | ハーフケリー | クォーターケリー |
|---|---|---|---|---|---|
| 20% | 6倍 | 1.20 | 4.00% | 2.00% | 1.00% |
| 15% | 8倍 | 1.20 | 2.86% | 1.43% | 0.71% |
| 10% | 12倍 | 1.20 | 1.82% | 0.91% | 0.45% |
| 25% | 3倍 | 0.75 | 0% | 0% | 0% |
最初の3例は、いずれも単純期待値が1.20です。
それでも、フルケリーの割合は同じではありません。
20%で当たる6倍の馬券と、10%で当たる12倍の馬券では、同じ期待値でも不的中が続く可能性が異なるからです。
また、最後の例では勝率が25%あります。
4回に1回ほど勝つなら、かなり魅力的に見えるかもしれません。
しかし、オッズが3倍では損益分岐点の約33.3%に届いていません。
この場合、ケリー基準の計算結果はマイナスになるため、購入額は0円です。
AIメモとして残すなら、
勝率の高さではなく、勝率と価格の関係で賭け金が決まる。
ということになります。
ケリー基準の本質は「多く賭けること」ではない

ケリー基準という言葉を聞くと、期待値が高い場面で大胆に賭ける方法という印象を持つかもしれません。
しかし、実際に式へ数字を入れてみると、配分は意外に小さくなります。
先ほどの例でも、勝率20%、単勝6倍という条件で資金の4%です。
競馬資金10万円なら4,000円。
残りの9万6,000円は賭けません。
ケリー基準の本質は、期待値があるときに資金を全投入することではありません。
優位性の大きさに応じて、残す資金と使う資金を分けること
にあります。
期待値があっても、外れる可能性の方が高い馬券は珍しくありません。
p_win20%の馬は、AIの確率が正しかったとしても、約80%は勝てない計算です。
一度の結果だけを見れば、4,000円を失う可能性の方が高い。
それでも、同様の条件を繰り返したときに資金成長が期待できる範囲を計算するのがケリー基準です。
フルケリーをそのまま使うのは難しい

理論上のケリー基準は、入力した勝率が正確であることを前提としています。
しかし、競馬AIのp_winは推定値です。
p_win20%と表示されていても、本当の勝率が正確に20%であるとは限りません。
実際には、
- 17%かもしれない
- 22%かもしれない
- 特定条件では過大評価しているかもしれない
- 最近の馬場傾向に対応できていないかもしれない
という誤差があります。
さらに、競馬のオッズは締切まで変動します。
購入時には6倍だった馬が、最終的に4.5倍になることもあります。
この場合、購入時点で想定していた期待値と、確定後の期待値は異なります。
フルケリーは、確率推定が正しく、提示された条件どおりに賭けられる場合の理論的な配分です。
現実には推定誤差やオッズ変動があるため、そのまま適用すると資金変動が大きくなります。ケリー型の運用は長期成長を重視する一方、大きなドローダウンを経験する可能性があり、リスク制約を加える研究も行われています。
ハーフケリーとクォーターケリー
そこで実務上の選択肢になるのが、ケリー基準で算出した金額を減らして使う方法です。
ハーフケリー
フルケリーの半分を賭けます。
先ほどの4%という計算結果なら、資金の2%です。
クォーターケリー
フルケリーの4分の1を賭けます。
4%なら、資金の1%です。
このように、理論値の一部だけを使う方法は「フラクショナル・ケリー」と呼ばれます。資金成長の速度を抑える代わりに、資金変動や推定誤差の影響を小さくする考え方です。
| 運用方法 | 計算上の4%をどう使うか | 10万円の場合 |
|---|---|---|
| フルケリー | 4% | 4,000円 |
| ハーフケリー | 2% | 2,000円 |
| クォーターケリー | 1% | 1,000円 |
現在の競馬AIのように、モデルの校正や条件別精度を検証している途中であれば、フルケリーよりもハーフやクォーターの方が扱いやすいと考えられます。
ケリー基準の計算結果は、「必ずこの金額を買う」という命令ではありません。
賭け金を決めるための上限や基準として使う方が現実的です。
競馬でケリー基準を使う際の注意点
ケリー基準の式はシンプルですが、競馬へ適用する際にはいくつか注意があります。
p_winをそのまま信じすぎない
p_winを賭け金計算に使うなら、予測確率と実際の勝率が合っているかを確認する必要があります。
例えば、p_win20%前後の馬を長期間集計した結果、実際には12%しか勝っていないなら、ケリー基準の入力値として使うには過大評価です。
確認したいのは、単なる指数1位の的中率ではありません。
| AIの予測帯 | 対象数 | 実際の勝率 | 予測との差 |
|---|---|---|---|
| p_win10~15% | 集計 | 集計 | 集計 |
| p_win15~20% | 集計 | 集計 | 集計 |
| p_win20~25% | 集計 | 集計 | 集計 |
| p_win25%以上 | 集計 | 集計 | 集計 |
このような形で、確率帯ごとの実勝率を確認する必要があります。
予測確率が校正されていなければ、計算式が正しくても賭け金は適切になりません。
単勝以外には専用の確率が必要
現在のp_winは、その馬が1着になる確率です。
したがって、単勝の期待値計算には直接使えます。
一方で、複勝やワイドには、そのまま使えません。
複勝なら、その馬が3着以内に入る確率が必要です。
ワイドなら、選んだ2頭がともに3着以内へ入る確率が必要です。
p_winが高い馬は複勝圏にも入りやすい傾向がありますが、勝率と複勝率は同じものではありません。
単勝用の確率を、そのままワイドの賭け金計算に流用すると、理論上の前提が崩れます。
複数馬券を同時に買う場合は単純ではない
同じレースで、
- A馬の単勝
- B馬の単勝
- A-Bのワイド
を同時に買う場合、それぞれの結果は独立していません。
A馬が勝てばB馬の単勝は外れますが、ワイドは当たる可能性があります。
単純なケリー式で一つずつ計算し、すべての金額を足すだけでは、レース全体のリスクを正しく捉えられないことがあります。
まずは、
1レース1馬券に近い単純な運用から検証する
方が理解しやすいでしょう。
最終オッズとの差を記録する
競馬は投票によってオッズが変動します。
購入時のオッズだけでなく、最終オッズも記録しておきます。
AIの評価がよくても、購入後にオッズが大きく下がる馬ばかりなら、実際の期待値は想定より低くなっている可能性があります。
購入判断の検証には、
- 購入時オッズ
- 最終オッズ
- AIのp_win
- 想定期待値
- 購入金額
- 結果
を残しておきたいところです。
競馬資金の範囲を先に決める
ケリー基準では、「現在の資金に対して何%を賭けるか」を計算します。
そのため、何を資金として扱うのかを先に決めなければなりません。
銀行口座の残高すべてを競馬資金としてはいけません。
生活費、教育費、貯蓄、緊急時の資金とは分け、失っても生活に影響しない娯楽費の範囲で設定します。
例えば、競馬用の資金を3万円と決めた場合、ケリー基準の割合はその3万円に対して計算します。
総資産や給料全体に対して計算するものではありません。
また、不的中によって資金が減れば、次回の購入額も減らします。
3万円の資金に対する2%は600円ですが、資金が2万円まで減れば2%は400円です。
反対に、資金が増えれば購入額も少しずつ増えます。
このように資金量に応じて賭け金が変わる点も、定額購入との違いです。
実践的な運用手順
現在の競馬AIにケリー基準を組み合わせるなら、次のような流れが考えられます。
1.AIでp_winを算出する
まずは全出走馬の勝率を計算します。
ただし、指数が出たこと自体を購入理由にはしません。
2.モデルが苦手な条件を確認する
- 初出走馬が多い
- キャリアの浅い若駒戦
- 馬場が急変している
- 過去データが少ない
- 条件変更が大きい
といったレースでは、p_winの不確実性が高い可能性があります。
その場合は見送るか、計算結果よりさらに金額を下げます。
3.p_winとオッズを比較する
単純期待値を計算します。
p_win × 単勝オッズ
1以下なら、基本的には購入対象外です。
ただし、わずかに1を上回っただけでは、推定誤差やオッズ低下で優位性が消える可能性があります。
安全幅を設けることも検討します。
4.ケリー基準を計算する
期待値がある候補について、資金割合を計算します。
(オッズ × p_win − 1)÷(オッズ − 1)
5.ハーフまたはクォーターへ減額する
モデルの誤差を考え、算出額をそのまま使用しない方法です。
さらに、1レース当たりの独自上限も設定します。
6.購入理由と金額を記録する
結果だけでなく、計算時点のp_winとオッズを残します。
外れたとしても、購入時点で合理的な判断だったかを振り返れるようになります。
よくある資金管理の失敗
すべて同じ金額で買う
均等買いには分かりやすさがあります。
しかし、期待値の差を資金配分へ反映できません。
期待値がわずかにプラスの馬券と、大きな評価差がある馬券を同額で買うことになります。
ただし、モデルの信頼性が十分に確認できていない段階では、少額の均等買いで検証する方法にも意味があります。
最初から大きく強弱をつけるより、まずは確率推定が機能しているかを確かめる必要があります。
負けたら金額を増やす
前のレースで負けたことは、次のレースの期待値を高くしません。
負け額を基準に賭け金を増やす方法は、ケリー基準とは反対の考え方です。
ケリー基準で見るのは、自分がいくら負けているかではありません。
その馬券の勝率とオッズです。
当たった直後に増額する
連続して的中すると、自分の予測精度が急に高くなったように感じます。
しかし、数レースの的中だけでモデルの精度が変化したとは言えません。
資金が増えたことで購入額がわずかに増えることはありますが、気分によって割合自体を変更するのは避けたいところです。
計算結果を上限ではなくノルマにする
ケリー基準で2,000円と出たからといって、必ず2,000円買わなければならないわけではありません。
当日の馬場、オッズ変動、モデルの苦手条件などを確認し、見送る判断も残されています。
数式は購入を強制するものではありません。
まだケリー基準が難しい場合の簡易運用
いきなり毎レース計算するのが難しい場合は、段階的な資金配分から始める方法もあります。
例えば、競馬用資金に対して1単位を決めます。
競馬資金が3万円なら、1単位を300円とする形です。
| 条件 | 購入額の例 |
|---|---|
| 期待値なし | 購入しない |
| 期待値はあるが優位性が小さい | 1単位 |
| 優位性が比較的大きい | 2単位 |
| モデルの苦手条件 | 見送り、または減額 |
| 1日の上限到達後 | 購入しない |
これは厳密なケリー基準ではありません。
それでも、
- 期待値がない馬券を買わない
- 感情で賭け金を変えない
- 強弱を事前ルールで決める
という基本は取り入れられます。
旧記事では「期待値ありなら100円、強い期待値なら200円」としていました。
リメイク後は、固定金額だけでなく、競馬資金に対する割合として考える方が、資金量の変化に対応しやすくなります。
まとめ
ケリー基準は、勝ち馬を見つける方法ではありません。
期待値があると判断した馬券について、競馬資金のうちどの程度を配分するかを考える方法です。
重要なポイントを整理すると、次のようになります。
- 資金管理だけでマイナス期待値は変えられない
- 先にp_winとオッズを比較する
- 期待値がなければ購入額は0円
- ケリー基準は長期的な資金成長を重視する
- p_winの推定誤差を考慮する
- フルケリーは資金変動が大きくなりやすい
- ハーフやクォーターで抑える方法がある
- 単勝以外には、その券種に対応した確率が必要
- 競馬資金は生活資金と分ける
- 購入時と最終オッズを記録する
ぼくはまだ、競馬を理解している途中です。
以前は、資金管理とは「当たると思った馬に、どれくらい自信を持っているか」を金額で表すものだと思っていました。
しかし、ケリー基準を考えると、少し違うようです。
大切なのは自信の強さではありません。
推定した確率と、提示されたオッズの差を、資金を壊さない範囲で金額に変換すること。
資金管理は、強気になるための方法ではありません。
期待値が見つからないときに0円を選び、期待値があっても賭けすぎないための仕組みなのかもしれません。




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