競馬AIを自分で作っていると、ときどき身もふたもない疑問が浮かびます。
「ここまで時間をかけるくらいなら、成績の良い誰かのAI予想に乗っかった方が早いのでは?」
Pythonを書き、JRA-VANからデータを取得し、データベースを整備する。特徴量を考え、LightGBMなどでモデルを学習させ、p_winを出し、バックテストを繰り返す。データリークがないか確認し、オッズ帯や人気別に回収率を調べ、それでも実戦では普通に外れます。
一方、SNSやブログを見れば「AI指数」「AI予想」「回収率○%」を掲げている人はたくさんいます。中には毎週すべてのレースについて指数を公開している人もいますし、有料予想を購入しても、自分で競馬AIを一から構築する時間に比べれば大した負担ではないかもしれません。
目的が「AIを作ること」ではなく「競馬で勝つこと」なら、すでに良いAIを持っている人の予想を使う方が合理的にも見えます。
今回はあえて、自分で競馬AIを作ることを正当化するのではなく、「他人のAIに乗る方が早いのではないか」という疑問を真正面から考えてみます。
- 目的が「明日の馬券を当てる」だけなら、他人のAIを使う方が圧倒的に早い
- 問題は「そのAIが本当に優秀なのか」をどう判断するか
- 「回収率120%のAI」があっても、そのまま乗れるとは限らない
- 他人のAIを使う最大の弱点は「なぜその馬なのか分からない」こと
- ただし「理由が分からないから使わない」も少し極端
- では複数のAIに乗ればさらに強くなるのか
- 「他人のAI+自分のAI」はかなり面白い使い方
- 他人のAIの「人気順位」自体も情報になる
- 他人のAIを利用するなら「AIを選ぶAI」が必要になる?
- 完全に丸乗りするなら「負けたとき耐えられるか」が重要
- 「自分で作る価値」は成績だけでは測れない
- 他人のAIに乗ると「結果だけを見る競馬」になりやすい
- ただし「全部自分で作る」ことにもこだわらなくてよい
- 最も効率がよいのは「強い他人のAIを探し、自分で検証する」ことかもしれない
- AI時代は「予想能力」より「選択能力」が重要になるのかもしれない
- 自分のAIより他人のAIが強かったらどうする?
- 「他人のAIに乗る」は最終回答ではなく、新しい問いの始まりになる
- まとめ
目的が「明日の馬券を当てる」だけなら、他人のAIを使う方が圧倒的に早い
まず認めなければならないのは、時間効率だけを比較すれば他人のAIを利用する方が圧倒的に早いことです。
自分で競馬AIを作ろうとすると、予想以前の作業が大量にあります。データ取得環境を作り、テーブル構造を理解し、欠損値を処理し、過去成績を集計し、特徴量を作り、モデルを学習させる必要があります。モデルが完成しても、バックテストの実装や実戦データへの適用、出力フォーマットの整備などが待っています。
競馬に使える時間が週3時間しかない人が、この作業から始めるのはかなり大変です。
それなら、すでに誰かが公開しているAI指数を見て、上位馬から馬券を考えた方がすぐにレースへ参加できます。
例えば毎週36レースについて、
「AI指数1位」
「推定勝率」
「期待値候補」
まで提供してくれるサービスがあれば、自分で同じものを作るには何か月もかかるかもしれません。
したがって、競馬AIを利用すること自体が目的なら、わざわざ自作する必要はありません。
これは株式投資で、インデックスファンドを買えばよいのに自分で銘柄選定システムを作るようなものにも少し似ています。完成品が十分に優秀なら、それを使う方が効率的です。
問題は「そのAIが本当に優秀なのか」をどう判断するか

しかし、他人のAIへ乗る場合には別の難しさが出てきます。
それは、そのAIの実力をどう評価するのかという問題です。
SNSを開けば、AI予想の的中報告はいくらでも見つかります。
「AI指数1位が単勝12倍で的中」
「三連複万馬券的中」
「本日回収率180%」
こうした結果を見ると強そうに感じます。
しかし、本当に知りたいのはその一日の成績ではありません。
例えば、
何レース予想したのか。
外れた予想も公開されているのか。
賭け金は一定なのか。
回収率はどの期間で計算しているのか。
バックテストなのか実購入なのか。
買い目はレース前に公開されているのか。
こうした情報が必要になります。
以前考えた「回収率100%超えを名乗るために必要な条件」と同じ問題です。
他人の競馬AIを利用する場合、モデルの中身が見えないこと自体よりも、成績の見せ方が正しいかを判断する必要があります。
ここまで検証するなら、「他人のAIに乗れば何も考えなくてよい」というほど簡単ではなくなってきます。
「回収率120%のAI」があっても、そのまま乗れるとは限らない
仮に、本当に長期回収率120%のAIが見つかったとします。
では、そのAIの上位馬を全部買えばよいのでしょうか。
ここにもいくつか問題があります。
例えば、その120%が単勝5~15倍だけを購入した結果かもしれません。指数1位を無条件で買うと回収率85%だったものが、特定条件だけ抽出すると120%になることはあり得ます。
あるいは、買い目公開後に大量の人が同じ馬を購入すればオッズが下がる可能性もあります。競馬は固定価格の商品ではなく、購入者自身がオッズ形成に参加する市場です。
公開時点で単勝10倍だった馬が、締切時には7倍になる。
AIが推定する勝率に変化がなくても、価格が変われば期待値は変わります。
つまり、
良い予想を見つけること
と、
その予想を良い価格で買うこと
も別です。
有名なAIへ乗れば乗るほど、そのAIが発見した妙味が市場に消化される可能性まで考えなければなりません。
他人のAIを使う最大の弱点は「なぜその馬なのか分からない」こと

個人的に、他人のAIを使う際に一番大きいと感じるのはここです。
例えば、
AI指数1位 8番人気
p_win 0.18
と出ていたとします。
これはかなり気になります。
しかしモデルが非公開なら、「なぜこの馬を18%と評価したのか」は分かりません。
距離適性なのか。騎手なのか。前走内容なのか。斤量なのか。血統なのか。それとも複数の特徴量の組み合わせなのか。
結果的にその馬が負けた場合も、
「今回はたまたま外れた」
で終わってしまいます。
自分で作っているAIなら、少なくともモデルへ何を入力しているかは把握できます。特徴量重要度を見たり、条件別成績を調べたりしながら、「このモデルはどういう馬を高く評価しやすいのか」を観察できます。
他人のAIは答えを利用する道具としては優れていますが、競馬そのものを理解する材料としては情報が不足する場合があります。
ただし「理由が分からないから使わない」も少し極端
一方で、「説明できないAIは信用できない」と完全に切り捨てるのも少し違うと思います。
競馬で重要なのは、最終的には未来のレースで予測が再現するかどうかです。
モデルの仕組みを丁寧に説明できても回収率70%なら、馬券戦略としては厳しいでしょう。反対に中身をほとんど公開していなくても、何年間も全予想を事前公開し、一定ルールで100%を超えているなら無視できません。
これは人間の予想家も同じです。
血統理論を何時間でも説明できる人が必ず勝てるとは限りませんし、「この馬は何となく良い」としか説明できない人でも、本当に長期間市場より正しく評価できるなら価値があります。
したがって、他人のAIを利用するなら、
説明力より検証可能性
を重視した方がよいのかもしれません。
全予想が残っている。集計条件が明確。都合の悪いレースも消していない。長期間の成績を確認できる。
こうしたAIなら、自作でなくても十分利用価値があります。
では複数のAIに乗ればさらに強くなるのか

ここで次の発想が出てきます。
一つのAIを信用できないなら、複数のAIを見ればよい。
例えばA氏、B氏、C氏のAI指数を集めます。
A氏 1位=5番
B氏 1位=5番
C氏 1位=5番
なら、3つのAIが一致しています。
これは強そうです。
反対に、
A氏 5番
B氏 8番
C氏 2番
なら評価が割れています。
この「AIの合議制」はかなり面白い考え方です。
実際、機械学習でも複数モデルを組み合わせるアンサンブルという考え方があります。一つのモデル固有の誤りを、別のモデルで補う方法です。
競馬でも、
複数の独立したAIが同じ馬を評価したときだけ買う
という戦略は検証してみる価値があります。
ただし問題は、本当に独立しているかです。
全員が同じJRA-VANデータを使い、LightGBMで似た特徴量を入れていれば、見た目ほど異なるモデルではない可能性があります。
3人のAIが一致していても、実際にはほぼ同じ情報から同じ結論を出しているだけかもしれません。
「他人のAI+自分のAI」はかなり面白い使い方
ここまで考えると、「他人か自分か」という二択にする必要はない気がします。
むしろ、
他人のAIを、自分のAIの比較対象として使う
方法があります。
例えば自分のAIでは、
1位 A馬
2位 B馬
3位 C馬
だったとします。
別のAIでは、
1位 A馬
2位 D馬
3位 B馬
です。
A馬は一致しています。
一方C馬とD馬の評価が違います。
すると、「なぜ違うのだろう」と考える材料になります。
さらに1000レース蓄積して、
自分と他AIがともに1位だった場合。
自分だけ1位だった場合。
他AIだけ1位だった場合。
の勝率・回収率を比較できます。
もし、
両方一致:単勝回収率108%
自分のみ:95%
他AIのみ:91%
なら、モデル間一致を一つのフィルターとして使えるかもしれません。
これは「他人のAIに乗る」というより、他人のAIを新しい特徴量として利用する考え方です。
他人のAIの「人気順位」自体も情報になる
さらに極端に考えると、他人のAIそのものを特徴量化できます。
例えば、
AI-A順位
AI-B順位
AI-C順位
自分のp_win
JRA人気順位
をデータベースへ保存します。
すると、
「外部AI3つのうち2つ以上が上位3頭に入れている」
「自分のAIは1位だが、他AIではすべて低評価」
といった条件を作れます。
これは競馬新聞の印を数値化することにも似ています。
◎が何個付いているか。
専門家の印が一致しているか。
AI時代では、それが「複数AIの評価」に置き換わるだけとも言えます。
ただし公開AIが頻繁にモデル変更をすると、過去と現在の意味が変わるので、その点は難しいところです。
他人のAIを利用するなら「AIを選ぶAI」が必要になる?

ここまで進むと少し面白い状況になります。
競馬を予想するAIがあります。
そのAIが大量に存在します。
では、どのAIを信じればよいのか。
すると今度は、
AIを評価する仕組み
が必要になります。
例えば過去半年について、
AI-A:単勝回収率105%
AI-B:95%
AI-C:120%
だったとします。
それならCを使えばよさそうです。
しかしCは一度の50倍的中で120%になっているかもしれません。
なら、
レース数。
最大払戻依存。
オッズ帯。
直近成績。
予測確率の校正。
などを評価します。
結局、競馬AIそのものを作らなくても、競馬AIを評価するためのデータ分析が始まります。
「楽をするために他人のAIへ乗ったのに、結局分析している」
という少し面白い状態です。
完全に丸乗りするなら「負けたとき耐えられるか」が重要

他人のAIへ丸乗りすると、もう一つ心理的な問題があります。
例えば信頼していたAIが10連敗します。
自分で作ったモデルなら、
「バックテスト上、10連敗程度は普通にある」
と理解しているかもしれません。
しかし他人のAIの場合、
「本当にこの人を信用して大丈夫なのか」
という疑念が出ます。
15連敗。
20連敗。
そのタイミングで利用をやめます。
すると翌週から的中し始める。
競馬では十分あり得ます。
つまり、他人のAIを使う場合にも、
どの程度のブレを想定して使い続けるのか
を理解しておかなければなりません。
これは投資信託を買った人が下落相場で耐えられなくなる問題にも似ています。
手法を理解していないほど、悪い時期に継続するのが難しくなります。
「自分で作る価値」は成績だけでは測れない
ここでようやく、自作AI側の価値を考えます。
もし自作AIが他人のAIより成績が悪ければ、馬券だけを考えるなら利用価値は低いでしょう。
しかし競馬AIを作る過程では、予想以外にも多くのものが残ります。
例えば、
競馬データの構造を理解する。
SQLを使う。
Pythonでデータ加工する。
機械学習を試す。
統計的なブレを考える。
期待値と的中率の違いを理解する。
自分の仮説をデータで検証する。
こうした経験です。
さらに「なぜこの条件では回収率が高いのか」という疑問から、競馬そのものを見る視点も増えます。
馬券収支だけを指標にすれば遠回りでも、趣味としての研究まで含めれば自作する意味は大きく変わると思います。
他人のAIに乗ると「結果だけを見る競馬」になりやすい

例えば毎週、
「AI1位だからこの馬を買う」
だけを続けたとします。
当たれば嬉しい。
外れれば残念。
非常にシンプルです。
効率はよいですが、競馬を理解するという点ではあまり情報が増えません。
自分でモデルを作っていると、
「距離特徴量を変えたらどうなるだろう」
「高齢馬を過小評価していないか」
「騎手データは本当に必要なのか」
と疑問が増えていきます。
そして実際のレースを見ながら、その答えを考えます。
つまり自作AIは、
予想する道具であると同時に、競馬へ疑問を持つ装置
にもなっています。
このブログの目的を考えるなら、ここはかなり大きな違いです。
ただし「全部自分で作る」ことにもこだわらなくてよい
反対に、自作するからといってすべてゼロから作る必要もありません。
例えば血統データ分析は他人の研究を参考にする。
調教評価は公開指数を利用する。
オッズの市場評価はそのまま利用する。
そして自分は、それらをどう組み合わせるかを考える。
これは普通のことです。
AI開発自体も、多くのライブラリや既存手法の上に成り立っています。
LightGBMそのものを自分で発明したわけではありません。
つまり、
他人の知識に乗ることと、自分で研究することは矛盾しません。
競馬AIでも「全部自前」か「全部丸乗り」ではなく、どこを自分で考えるかを決めればよいのだと思います。
最も効率がよいのは「強い他人のAIを探し、自分で検証する」ことかもしれない
かなり現実的な方法を考えると、ここへ行き着きます。
まず公開されているAI予想を複数集めます。
そして一定期間、馬券を買わずに記録します。
例えば、
公開順位。
予測確率。
実際の人気。
単勝オッズ。
着順。
を保存します。
半年後、
指数1位勝率。
単勝回収率。
複勝回収率。
人気別成績。
最大連敗。
などを比較します。
その中で本当に再現性が高そうなAIだけを利用します。
これは一からモデルを作るより圧倒的に早く、SNSの的中報告だけを信用するよりはるかに慎重です。
つまり、
他人のAIに乗ること自体が悪いのではなく、検証せずに乗ることが問題
なのだと思います。
AI時代は「予想能力」より「選択能力」が重要になるのかもしれない

生成AIや機械学習が普及すると、競馬AIを作るハードルはさらに下がっていくでしょう。
すると将来的には、
「AIを使っている」
こと自体にはほとんど意味がなくなるかもしれません。
AI指数が何十種類も公開される。
予想モデルも簡単に作れる。
そうなると重要なのは、
どのAIを使うか。
どの条件で使うか。
どのレースでは使わないか。
オッズに対して買う価値があるか。
という選択です。
つまり競馬AIの競争は、
「誰がAIを持っているか」から「大量のAI出力をどう評価するか」へ移る
可能性があります。
その意味では、自分でAIを作る経験も無駄ではありません。
モデルの弱点や過学習、サンプル数の問題を理解している方が、他人のAIを見るときにも冷静になれるからです。
自分のAIより他人のAIが強かったらどうする?
これは競馬AIを作っている側には少し苦しい問いです。
何年も研究した自分のAI。
一方、SNSで見つけた他人のAI。
一年間比較した結果、
自分:回収率94%
他人:回収率112%
だった。
この場合どうするのか。
個人的には、馬券戦略としては他人のAIを利用してよいと思います。
自作AIへ愛着があるからといって、劣っている結果を無視する必要はありません。
むしろ、
なぜ負けたのかを研究する材料
になります。
特徴量が違うのか。
レース選択が違うのか。
馬券種が違うのか。
市場評価の扱いが違うのか。
他人のAIを競合モデルとして見ることで、自分のAIの弱点を知ることができます。
「自分で作ったものだから自分のAIだけ使う」
というのも、ある意味では感情的な判断なのかもしれません。
「他人のAIに乗る」は最終回答ではなく、新しい問いの始まりになる
最初の疑問に戻ります。
「結局、他人のAIに乗った方が早いんじゃないの?」
答えは、
早いと思います。
明日のレースでAI予想を使いたいだけなら、完成したものを使う方が圧倒的に早いでしょう。
しかし、そこから新しい疑問が始まります。
そのAIは本当に強いのか。
どの条件で強いのか。
今も再現しているのか。
回収率は一撃依存ではないか。
他のAIより優れているのか。
自分のAIと組み合わせるとどうなるのか。
結局、これらを調べ始めます。
すると「他人のAIへ乗る」ことも、かなり立派なデータ分析になります。
まとめ
競馬でAIを使いたいだけなら、他人が作った優秀なAIに乗る方が早いです。データベースを作り、特徴量を設計し、モデルを学習させる必要もありません。良い予想を安価に利用できるなら、時間効率という意味では合理的です。
ただし、本当に難しいのはAIを作ることではなく、どのAIが本当に優秀なのかを見抜くことなのかもしれません。
的中報告だけでは判断できません。長期成績、レース数、回収率、最大払戻への依存、事前公開の有無などを確認する必要があります。また、良いAIであっても公開によってオッズが下がれば、同じ期待値を得られない可能性もあります。
一方、自分でAIを作ることには、単なる予想精度とは違う価値があります。競馬データの構造を理解し、自分なりの仮説を作り、それを検証する。その過程そのものが競馬を見る材料になります。
だから「他人のAIか、自分のAIか」という二択にする必要はないのでしょう。
他人のAIを使う。
自分のAIと比較する。
複数AIの一致を調べる。
外部AIの順位を一つの特徴量として利用する。
そして本当に成績の良いものだけを残す。
こう考えると、他人のAIは競争相手ではなく、新しいデータソースにもなります。
最終的に重要なのは、「自分で作ったかどうか」ではありません。
その予測をどこまで検証し、なぜ使うのかを自分で説明できるか。
他人のAIへ丸乗りすることも、自分でAIを作り続けることも、それぞれ一つの方法です。ただ、どちらを選ぶにしても「AIが言っているから」で思考を止めてしまえば、競馬AIを使う面白さのかなり大きな部分を失ってしまう気がします。
もしかすると一番効率がよいのは、他人の優秀なAIに乗っかることではなく、他人のAIまで利用しながら、自分なりに「何を信じるか」を学習していくことなのかもしれません。




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