ぼくはまだ、競馬を完全には理解していません。
競馬AIを作り、過去のレースデータから各馬の勝率を計算していると、ふと考えることがあります。
競馬を予想するうえで、AIと人間のどちらが優れているのか。
AIは大量のデータを処理できます。
人間なら何時間もかかるような過去成績の比較を短時間で行い、すべての出走馬を同じ基準で評価できます。
その一方で、人間はレース映像を見て違和感を覚えたり、馬場や展開の変化を感覚的に捉えたりできます。
どちらにも、できることとできないことがあります。
今回は、AIと人間の競馬予想における違いを整理しながら、実際の馬券ではどのように役割を分けるとよいのか考えてみます。
AIは大量の情報を同じ基準で処理できる

競馬には、非常に多くの情報があります。
- 過去の着順
- 走破タイム
- 上がりタイム
- 距離
- コース
- 馬場状態
- 枠順
- 斤量
- 騎手
- 馬齢
- 前走からの間隔
- 脚質
- クラス
人間がこれらを確認する場合、どうしても見落としや偏りが生まれます。
ある馬については前走映像まで詳しく確認したのに、別の馬については着順だけを見る。
好きな騎手の馬は細かく調べる一方、知らない馬は簡単に評価を下げる。
限られた時間の中では、すべての馬を完全に同じ基準で比較することは困難です。
AIは、あらかじめ与えられた特徴量の範囲であれば、各馬を機械的に評価できます。
現在このブログで使用しているモデルも、当日のレース条件、馬の基本属性、過去5走の要約統計などをもとに、各馬が1着になる確率をp_winとして出力しています。
AIが優れているのは、特定の馬を応援したり、前走の派手な勝ち方に興奮したりせず、同じ計算を繰り返せることです。
人間は印象に引っ張られやすい
競馬予想では、記憶に残りやすい情報が判断へ強く影響します。
例えば、前走で圧勝した馬を見ると、今回も簡単に勝ちそうに感じます。
有名騎手が騎乗しているだけで、安心感を覚えることもあります。
反対に、一度大きく負けた馬は、その後に条件が変わっていても買いにくくなります。
このような傾向は、競馬に限ったものではありません。
人間は目立つ出来事や直近の結果を重視しやすく、自分が最初に持った考えと一致する情報を集めることがあります。
競馬では、こうした偏りが次のような形で表れます。
- 前走1着馬を必要以上に高く評価する
- 人気騎手だからという理由で安心する
- 一度外した馬を感情的に嫌う
- SNSで話題の馬を買いたくなる
- 自分の本命馬に都合のよい情報だけを見る
- 負けた後に予想基準を緩める
AIも完全に中立ではありません。
学習データや特徴量の選び方には、モデルを作った人間の判断が入っています。
それでも、完成したモデルは、少なくともレース当日に気分で評価基準を変更することはありません。
この一貫性は、AIの大きな利点です。
AIは疲れず、負けを取り返そうとしない
競馬では、予想能力だけでなく、感情の管理も重要です。
最初のレースで外れる。
次も外れる。
すると、
「そろそろ当たるはず」
「ここで取り返したい」
「最終レースだけ金額を増やそう」
と考えやすくなります。
しかし、前のレースで負けたことと、次のレースの勝率には直接的な関係がありません。
AIは、前のレースで外れたからといって、次のレースのp_winを感情的に変更しません。
勝っていても、気分が大きくなって急に穴馬を高評価することはありません。
人間は長時間予想を続けると疲れます。
朝は丁寧に出走表を確認していたのに、夕方になると騎手名と人気だけで買ってしまうこともあります。
AIは、同じ処理を何度繰り返しても疲労しません。
競馬を一日中予想するという条件だけを考えれば、処理の一貫性ではAIの方が向いています。
AIが得意なのは「比較」と「選別」
AIが競馬で特に力を発揮しやすいのは、すべてのレースから候補を絞る場面です。
例えば、1日に24レースあるとして、人間がすべてを詳しく確認するのは大変です。
一方、AIであれば全レースを評価し、
- p_winが15%以上の馬がいるレース
- 指数1位と2位に大きな差があるレース
- 過去データ上、モデルが得意としている条件
- 市場人気とAI評価に差がある馬
などを抽出できます。
このブログでも、p_winが突出したレースだけを観察対象として取り上げています。
ここで重要なのは、AIに勝ち馬を決めてもらうことではありません。
人間が詳しく見る価値のあるレースを選んでもらうことです。
AIは、膨大な選択肢を減らすフィルターとして非常に便利です。
人間はデータの外側を考えられる

一方で、人間にしか見つけにくい情報もあります。
AIは、与えられたデータの範囲でしか判断できません。
モデルに馬体重やパドック情報が入っていなければ、それらは評価に反映されません。
レース映像を特徴量にしていなければ、前走で進路が詰まったことや、直線で追えなかったことも直接は理解できません。
人間は、数字だけでは表現しにくい事情を考えられます。
例えば、前走10着でも、
- スタート直後に不利を受けた
- 外を回り続けた
- 距離が長かった
- 展開が極端に向かなかった
- 直線で進路がなくなった
- 今回は得意コースへ戻る
といった理由があれば、着順だけで評価しないことができます。
AIが前走10着を一つのデータとして処理するのに対して、人間は「なぜ10着だったのか」を考えられます。
この違いは大きいものです。
初出走馬や急成長はAIにとって難しい
AIは過去データをもとに未来を予測します。
そのため、過去データが少ない馬を評価するのは得意ではありません。
代表的なのが新馬戦や、初出走馬が混じる未勝利戦です。
過去5走の成績を使うモデルであれば、そもそも出走経験のない馬には十分な情報がありません。
既走馬のデータが豊富だからといって、その馬が初出走馬より強いとは限りません。
また、競走馬は常に同じ能力で走るわけではありません。
特に若い馬は、数か月の間に大きく成長することがあります。
前走時点では力不足だった馬が、休養や調教を経て、今回急に能力を伸ばしている可能性もあります。
AIは過去の傾向を学ぶことは得意ですが、過去に存在しなかった変化を事前に捉えることは簡単ではありません。
人間も成長を正確に見抜けるわけではありません。
それでも、調教内容や馬体の変化、関係者のコメントなどから、過去データだけでは分からない変化を考えることはできます。
人間の「直感」は本当に役に立つのか
競馬では、直感を重視する人もいます。
パドックを見て、
「今日はこの馬がよく見える」
「いつもより落ち着いている」
「走りそうな雰囲気がある」
と感じることがあります。
この直感をすべて否定する必要はありません。
長期間競馬を見ている人の直感には、本人が言葉にできない経験則が含まれている可能性があります。
過去に見た馬体や歩様、気配との比較が無意識に行われ、違和感として表れているのかもしれません。
ただし、直感には再現性の問題があります。
同じ馬を見ても、人によって評価が変わります。
的中した直感は覚えていても、外れた直感は忘れてしまうこともあります。
人間の直感を使うなら、記録が必要です。
「よく見えた」という感覚だけで終わらせず、
- どの部分を評価したのか
- どの条件で判断したのか
- 実際の結果はどうだったか
を残すことで、直感が本当に役立っているのか確認できます。
直感はAIにはない武器になり得ますが、検証しなければ単なる思い込みとの区別がつきません。
AIも人間の偏りから逃れられない
AIは感情に左右されにくい一方、完全に客観的な存在ではありません。
AIモデルは、人間が用意したデータを使って学習します。
どの期間のデータを使うか。
どの特徴量を入れるか。
何を正解として学習させるか。
どの指標で性能を評価するか。
これらはすべて人間が決めています。
例えば、過去5走の平均着順を重視するモデルは、近走成績のよい馬を高く評価しやすくなります。
騎手成績を強く入れれば、有力騎手の馬が高評価されやすくなります。
オッズを特徴量として入れれば、市場人気に近い予測へ寄る可能性があります。
つまり、AIは人間の偏りを消すものではなく、設計によっては偏りを固定化することもあります。
さらに、学習データに含まれる過去の傾向が、現在も続いているとは限りません。
競馬場の改修、番組構成、騎手の成長、調教方法の変化などによって、過去のルールが少しずつ変わることもあります。
AIを使う場合も、定期的な検証と更新が必要です。
AIと人間の特徴を比較する
両者の違いを簡単に整理すると、次のようになります。
| 比較項目 | AI | 人間 |
|---|---|---|
| 大量データの処理 | 得意 | 時間と集中力に限界がある |
| 評価基準の一貫性 | 保ちやすい | 感情や疲労で変化しやすい |
| 全レースの比較 | 得意 | 負担が大きい |
| 確率の計算 | 得意 | 感覚的になりやすい |
| レース映像の文脈理解 | データ化しなければ難しい | 比較的得意 |
| 初出走・急成長の評価 | 情報不足になりやすい | 周辺情報から推測できる |
| パドック・当日気配 | 入力されなければ分からない | 直接観察できる |
| 感情管理 | 感情による賭け金変更はしない | 連敗や連勝の影響を受けやすい |
| 未知の変化への対応 | 学習範囲外には弱い | 柔軟に仮説を立てられる |
| 判断理由の説明 | モデルによっては難しい | 言語化できるが後付けも起こる |
この表を見ると、AIと人間のどちらか一方が、すべての面で優れているわけではないことが分かります。
「AI対人間」で考えると使い方を間違える
競馬AIについて考えるとき、
「AIは人間を超えられるのか」
という比較になりがちです。
しかし、実際の馬券運用では、競争させる必要はありません。
AIが得意な仕事をAIに任せ、人間が得意な部分を人間が補えばよいからです。
例えば、次のような役割分担が考えられます。
AIに任せる部分
- 全レースの指数計算
- 過去成績の比較
- 候補レースの抽出
- p_winの算出
- オッズとの期待値比較
- 条件別成績の集計
- 購入記録の分析
人間が確認する部分
- 初出走馬の存在
- 急な馬場変化
- レース映像上の不利
- 距離やコース変更の意味
- 当日の馬体重や気配
- モデルが見ていない情報
- 最終的に見送るかどうか
- 賭け金がルール内かどうか
AIは候補を出す。
人間は、その候補が今回の条件でも信頼できるかを確認する。
この順番であれば、人間が最初から全馬を調べる必要はありません。
AIの弱点を人間が補い、人間の感情的な判断をAIが抑える形になります。
実際の馬券では「AIを先、人間を後」にする
AIと人間を併用するとき、順番も重要です。
先に人間が本命馬を決め、その後でAI指数を見ると、自分の予想に都合よく数値を解釈してしまう可能性があります。
AI評価が高ければ、
「やはり自分の予想は正しかった」
と考えます。
AI評価が低ければ、
「AIには分からない要素がある」
と無視します。
これでは、AIを使っているようで、実際には自分の予想を補強しているだけです。
できれば、先にAIの評価を確認し、その後に人間が補足情報を調べる方がよいでしょう。
一例として、次のような流れです。
- AIで全レースを評価する
- 指数が突出したレースを抽出する
- p_winとオッズを比較する
- モデルが苦手な条件を確認する
- レース映像や当日情報を人間が確認する
- 購入条件を満たす場合だけ馬券を買う
- 結果を記録し、AI判断と人間判断を分けて振り返る
この方法であれば、AIの機械的な評価を残しつつ、人間の柔軟な判断も利用できます。
人間がAIを上書きする条件を決めておく

AIと人間を組み合わせる場合、問題になるのが「どこまで人間が修正してよいか」です。
毎回、人間の感覚でAI評価を変更していると、モデルを使う意味がなくなります。
そこで、AI判断を上書きできる条件を事前に決めておきます。
例えば、
- 初出走馬が複数いる
- 急激な馬場悪化があった
- 前走で明確な不利があった
- 馬体重が想定から大きく変わった
- モデルが未学習の条件変更がある
- オッズが急落し、期待値がなくなった
といった場合です。
反対に、
「なんとなく来そう」
「好きな騎手だから」
「SNSで評価されているから」
といった理由では、AI判断を変更しないようにします。
人間の裁量を完全になくす必要はありません。
ただし、裁量を使う条件を決めておかなければ、AIは都合のよい時だけ採用される存在になります。
結局、どちらが競馬に向いているのか
大量のレースを同じ基準で分析し、確率を計算し、感情に左右されずに候補を絞る。
この仕事にはAIが向いています。
一方で、データに含まれていない変化を見つけ、レース映像や当日の状況から背景を考え、最終判断を調整する。
この仕事には人間が向いています。
したがって、
予想の土台を作るのはAI。例外を見つけて最終判断をするのは人間。
という分担が、現時点では自然に見えます。
AIだけに任せると、データの外側にある変化を見落とします。
人間だけで予想すると、感情や記憶、疲労によって判断がぶれます。
どちらか一方を選ぶより、互いの弱点を補う方が合理的です。
まとめ
AIと人間には、それぞれ異なる強みがあります。
AIは、
- 大量のデータを処理できる
- 同じ基準で全馬を評価できる
- 確率とオッズを比較できる
- 疲労や感情で判断を変えない
- 候補レースを効率よく絞れる
という点で優れています。
人間は、
- レース映像の背景を考えられる
- 急成長や状態変化を推測できる
- 当日の馬場や気配を確認できる
- モデルの想定外に気づける
- AIの出力を現実の状況に合わせて解釈できる
という役割を持っています。
AIが人間を完全に置き換える必要はありません。
人間も、すべてを自分だけで考える必要はありません。
ぼくはまだ、競馬を理解している途中です。
ただ、競馬AIを使い続けていると、少しずつ見えてきたことがあります。
AIと人間のどちらが競馬に向いているのか。
その答えは、どちらか一方ではなく、
AIに迷わなくてよい部分を任せ、人間は迷う価値のある部分に集中すること
なのかもしれません。



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